第3回 食料システム法|中小企業は何から備えるべきか

── 食料システム法は「守り」と「攻め」を同時に求めてきます

まず前提:この法律は"対応しないと損"のタイプです

食料システム法は、読み方を間違えると「また規制が増えたのか」で終わってしまいます。でも実態はもう少し複雑で、取引の適正化(守り)と事業活動の促進(攻め)がセットになっています。守りだけやって終わると機会損失になりますし、攻めだけやろうとすると取引の火種が残ります。

この回は、中小企業が最初にやるべき準備を「順番」で整理します。やることは多いように見えますが、最初の一手は意外とシンプルです。


守り:2026年4月に間に合わせる「取引の適正化」準備

取引適正化は、2026年4月以降の運用が本格化する前提で制度設計されています。フードGメンも、2025年10月1日に発足し、すでに実態調査などの情報収集が走り出しています。

ここで中小企業が最初に備えるべきは、「立派な規程」ではなく、現場が誠実に答えられる状態です。雑に言うと、無視しない、放置しない、一律に断らない。これが最低ラインになります。

誠実に協議するというのは精神論ではなく、実務としては「説明できるかどうか」です。だから最初にやるべきは、値上げの資料作りというより、自社のコスト構造を説明できる形にしておくことです。

ここでよくある失敗は、会計上の費用(PL)だけ見て「原価が上がったので」と言ってしまうことです。相手が知りたいのは、もう一段具体的な話で、たとえば原材料、エネルギー、物流、人件費、歩留まり、ロスのどれが効いているのか、です。まずは月次で、粗い粒度でいいので要因分解できる状態を作っておくと、交渉も社内判断もブレにくくなります。

次にやるべきは、自社の商慣習の点検です。食料システム法の運用は段階的ですが、疑義が強い行為は、指導・助言の対象になり得ます。フードGメンは、情報受付・実態調査の上に、必要に応じて指導・助言等の措置を行う体制として設計されています。

典型的に荒れやすいのは、「値頃感」を理由に一方的に単価を据え置く、補助金があるからと値引きを迫る、物流効率化の提案を門前払いする、といったタイプです。ここは正直、法律の条文を読むより先に、社内の癖として残っていないかを洗った方が早いです。

国が指定する品目については、認定団体が作成するコスト指標が、交渉の土台として用意されます。品目に近い事業者(例:米・青果・牛乳・豆腐/納豆周辺)は、ここを知っているかどうかで交渉の疲労が変わります。コスト指標を「武器」にすると揉めます。そうではなく、社内外の説明を短くする道具として扱うのが現実的です。


攻め:2025年10月開始の「計画認定制度」で投資を前に進める

ここからが攻めです。計画認定制度は、食品等事業者が作成した事業活動計画を認定し、融資・税制・研究設備利用などの支援につなげる仕組みです。申請は通年受付で、審査期間の目安が「原則45日」と整理されています。

この制度は、言ってしまえば「投資をする会社を国が前に進める」仕組みです。だから、投資予定がある会社ほど相性がいい。逆に、投資を何も考えていない会社は、まず投資の種(課題)を見つけるところからになります。

制度上の枠は4つですが、やること自体はいつもの経営改善です。安定取引関係確立なら、国産原材料への切替、契約取引、出資など。流通の合理化なら、省力化・自動化、物流効率化、需要予測など。環境負荷低減なら、省エネ、食品ロス削減、脱プラ等。消費者選択支援なら、サステナ情報の見える化、情報提供といった内容です。

ここで「流行の言葉」を計画に書くことではなく、5年以内に実行できる粒度に落とすことが求められます。計画は「目標」「内容と時期」「資金と調達方法」を書く世界なので、結局、最後は投資計画になります。


金融支援と生産性向上:25年の返済期間が投資判断を変える

認定を受けると、日本政策金融公庫の長期・低利の枠が視野に入ります。返済期間は「10年超25年以内」が示されています。

中小企業の設備投資が進まない理由は、技術ではなく、だいたい資金と回収期間です。25年が選択肢に入るだけで、投資判断のストレスが変わります。もちろん審査はありますし、要件もありますが、そもそも相談しないと入口にも立てないタイプの制度なので、早めに窓口で当たりを取っておくのが得策です。

特にV'資金(生産性向上型)を狙うなら、「生産性を上げたいです」では弱いです。計画の中で、生産性向上を目標として言語化する必要があります。ここで現場にとって重要なのは、指標そのものよりも、「どの改善で」「どの作業が減り」「何が増えるか」を一本の因果で説明できることです。需要予測でも、検品レスでも、ピッキングでも、結局は現場の時間に落ちる話ですから。

計画認定の対象には、事業承継やM&Aを伴う取り組みも含まれます。つまり、後継者問題や再編を「いつかやる」ではなく、「制度の支援を使って片付ける」方向に持っていけます。このテーマは会社ごとの個別事情が強いので、ここでは断定はしません。ただ、少なくとも「承継は承継、投資は投資、取引は取引」と別々に考えるより、食料システム法の枠にまとめて、資金と制度を一緒に取りに行く方が、現実的に前へ進むケースは増えると思います。


協調と外部リソース:単独で抱えない方が早い

ここまで読むと、「やること多いな」と感じるはずです。実際、多いです。だからこそ、中小企業は単独で抱えない方がいい。

食料システム法は、事業者単体の計画認定だけでなく、支援機関が連携して支援する枠も用意しています。その実務的な入口として、地域コンソーシアムや、全国のプラットフォーム(LFP+)の活用が整理されています。「新商品の相談先がない」「技術の当たりが取れない」「連携先が見つからない」みたいな悩みは、こういう場に顔を出した方が早く解けます。結局、人と情報が集まる場所が勝ちます。

もう一つ、意外と知られていないのが、認定を受けることで、農研機構(NARO)の研究開発設備を有償で利用できる仕組みです。高圧処理装置やマイクロ波減圧乾燥機など、食品開発の実験と試作で効く設備が具体例として整理されています。設備投資は重いですが、設備を借りて試作→当たりを取ってから投資、という順番にできるだけでも、計画の現実性が上がります。


申請から支援までの流れ:事前相談が制度活用の分かれ目

制度の流れは難しく見えますが、順番は素直です。まず地方農政局などで事前相談をして、計画の筋(どの取組に当てるか、支援措置の見込み)を固めます。次に、計画を作って申請し、審査を経て認定される。審査の目安は原則45日。認定後に融資・税制・設備利用などの支援を具体化していく、という流れです。

この手の制度で一番もったいないのは、「完璧な計画を作ってから相談しよう」として止まることです。逆です。相談してから計画を整える方が速いです。


スケジュール:ここだけは押さえる

最後に、実務の目安を日付で揃えます。ここは曖昧にしない方がいいです。

時期何が動くか中小企業がやるべきこと
2025年10月〜計画認定の申請受付が本格化/フードGメン体制が稼働投資・連携の案を持って窓口相談を始める
2026年4月〜取引適正化の運用が本格化(指導・助言等の措置が想定)交渉を放置しない体制、商慣習点検、説明できる原価の棚卸し

最初の一手は「窓口に相談して、やることを2つに分ける」

第3回の結論はシンプルです。食料システム法への対応は、まず (1)守り=取引適正化の備え と (2)攻め=計画認定で支援を取りに行く の二つに分けて考える。これだけで、頭の整理が進みます。

そして、いきなり社内で抱え込まずに、地方農政局等の窓口に当たりを取り、制度の枠に自社の計画が乗るかを確認する。ここから始めるのが一番ロスが少ないです。


次回(第4回)は、ここまでの話を「さらに現場寄り」に落として、中小企業向けチェックリスト(今日からやる順番)にします。