「うちは小さい会社だから、評価制度はいらない」─それでも、評価項目は10あった方がいい理由

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中小企業の経営者が抱える、評価制度への本音
「うちは社員も少ないし、毎日顔を合わせている。評価制度なんて、大企業の話でしょう」
これは、中小企業の経営者からよく聞く言葉です。実際、社員数が10名に満たない規模であれば、評価制度がなくても会社は回ってきました。
一方で、少し話を続けると、こんな本音も出てきます。
「いや……必要なのは分かっているんです。ただ、あんな大げさなものはいらない」
この感覚は、かなり正確だと思います。
中小企業に必要なのは「評価制度」ではなく「評価項目」
結論から言えば、中小企業にとって必要なのは、制度として完成された人事評価ではありません。
必要なのは、会社として何を期待しているのか、本人はどこまでできているのか、このすり合わせのための共通言語なんです。そのために必要な評価項目数は、10項目もあれば十分です。
大企業の評価制度は、職種別、職能別、等級別に細かく分かれています。しかし中小企業では、一人が複数の役割を担い、職種の境界が曖昧で、状況に応じて仕事が変わるのが当たり前ですよね。この状態で職種別・職能別評価を作ると、誰にも完全に当てはまらず、評価項目が増え続け、結局は形骸化するという結果になりがちです。中小企業は、構造的に「共通評価」が向いているんです。
評価項目は「行動」と「ビジョン」の2層構造で
社員7〜10名規模であれば、評価項目は次の2層構造が現実的です。
共通行動として業務プロセスに関わるものを7〜8項目、ビジョン・方向性に関わるものを2〜3項目設ける。合計で9〜10項目になります。これ以上増やすと、評価者も被評価者も覚えきれません。
小さな会社ほど、「方向性は分かっているはずだ」と思いがちです。でも実際には、何を優先するか、どこまでやるか、どこで線を引くかといった判断基準は、人によって微妙に違うんですね。ビジョン評価とは、同じ言葉を言えるかではなく、同じ判断をしているかを見るための尺度です。これは、人数が少ない会社ほど重要になります。
業種別の作成例
製造業で多能工・現場兼務の場合、共通行動としては、不具合・異常の早期共有、後工程を意識した作業、品質を優先した判断、設備・工具の扱い方、作業の段取り・準備、技術・ノウハウの共有、忙しい工程への応援姿勢といった7項目が考えられます。ビジョンとしては、短期効率より品質・信用を優先しているか、自分の持ち場を越えて全体最適を考えているかといった2〜3項目を設定します。
建設業で現場・事務・営業が混在している場合は、共通行動として、報連相のタイミング、現場での安全配慮、元請・協力業者への対応姿勢、図面・仕様の理解と確認、段取り変更への柔軟対応、クレーム・是正対応、現場外業務への関与といった7項目が挙げられます。ビジョンとしては、その場しのぎではなく次につながる判断をしているか、「自分の現場」ではなく「会社の現場」として考えているかといった項目が有効でしょう。
サービス業で店舗・接客・運営を担う場合は、共通行動として、顧客対応の安定感、クレーム初動の姿勢、チーム内の情報共有、忙しい時間帯での動き方、店舗環境の維持、後輩・新人へのフォロー、数字・在庫への意識といった7項目を設けます。ビジョンとしては、目先の効率より顧客体験を優先しているか、店舗全体の空気を良くしようとしているかといった項目が考えられます。
評価制度の本当の役割とは
ここが一番大事なところです。
中小企業にとって評価制度は、給与やボーナスを自動計算する仕組みではありません。むしろ、会社が期待していることと、本人が発揮しているパフォーマンスを定期的にすり合わせるための装置になります。
だからこそ、評価項目は少なくていい。職種別でなくていい。ビジョンは必ず入れる。このくらいが、ちょうど良い。
「うちは小さい会社だから、評価制度はいらない」というのは、半分正解です。ただし、「評価項目はいらない」ではありません。10項目程度の評価項目を通じて、会社の期待を言語化すること。それができて初めて、少人数組織の強みは「阿吽の呼吸」から、再現性のあるチームワークに変わります。

中小企業診断士。経営改善計画策定・DX推進を専門とする経営コンサルタント。製造業や建設業を中心に、制度改正対応と利益改善を支援。制度改正を交渉力へ変える実務型支援を行っています。


