第4回 改正取引適正化 | 2026年改正で、運送業者は「交渉できる側」になる

── ただし、原価を語れない会社は何も変わらない
「荷主だから仕方ない」「うちが弱い立場だから言えない」──運送業界では、こうした言葉が長年、半ば常識のように使われてきました。契約にない荷役作業、終わりの見えない荷待ち、上がらない運賃、手形払い。現場の負担は積み上がる一方で、交渉の余地はほとんどなかったというのが実情でしょう。
しかし、令和8年(2026年)1月1日施行の改正法(取適法・振興法)は、この前提を大きく変えます。とくに重要なのが、新たに制度化される「特定運送委託」です。本記事では、下請側(受託側)の運送業者にとって、この改正が何を可能にし、何を求めているのかを整理します。
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改正法が変える4つのポイント
荷主との直接取引が、初めて「法の保護下」に入る
これまで、荷主(メーカー・卸売業者など)から元請運送事業者への直接の委託は、原則として下請法の対象外でした。そのため、「運送会社同士の問題ではない」「荷主との関係は商慣行だ」といった理由で、多くの問題がグレーゾーンに置かれてきました。
今回の改正で新設される特定運送委託により、荷主と運送事業者の直接取引そのものが、取適法の規制対象になります。これは単なる対象拡大ではありません。「荷主だから許されてきた行為」が、明確に是正対象になるという点が決定的です。
荷役・荷待ちは「無償が前提」ではなくなる
現場で最もトラブルが多いのが、契約に含まれていない荷役作業と、長時間の荷待ちです。改正法では、この点がかなり明確に整理されました。
まず、運送の委託内容に含まれていない荷積み・荷下ろしなどの作業を無償で行わせることは、「不当な経済上の利益の提供要請」として禁止されます。重要なのは、「誰が求めているか」です。荷主が直接要請している場合はもちろん、着荷主の要求であっても荷主がそれを前提としている場合は、費用を負担すべき責任は荷主側にあります。
また、荷主側の段取り不備や都合によって長時間の待機が発生した場合、その待機時間にかかる費用を負担しないことは「不当な給付内容の変更」に該当する可能性があります。「待つのも仕事のうち」という言い分は、少なくとも法的には、通用しにくくなると考えてよいでしょう。
運賃交渉は「応じなければならない」時代へ
燃料費、労務費、エネルギーコストの上昇──運送業界は、原価高騰の直撃を受け続けています。改正法では、価格交渉の入口そのものが強化されました。
費用変動を理由に運送業者が協議を求めたにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明をせず一方的に代金を決めたりする行為は、新たに禁止されます。「検討します」と言ったきり何も返さない対応も、リスクを伴うようになります。
また、過去の運賃を基準に「一律○%引き」とか「業界全体が苦しいから据え置き」といった対応も、通常の対価に比べて著しく低ければ、買いたたきとして問題視される可能性があります。
支払条件は、かなり厳格になる
資金繰りに直結する部分も、大きく変わります。支払期限は60日以内、手形払いは禁止、現金化できない電子記録債権も不可。遅延時は年率14.6%の遅延利息が発生します。「昔からこうしている」という慣行は、もはや理由になりません。
不当な要求を受けたときの相談先も強化されている
今回の改正では、執行体制も見直されています。公正取引委員会や中小企業庁だけでなく、国土交通省などの主務大臣も関与できるようになり、トラック・物流Gメン等への通報も可能です。さらに、通報を理由とした取引停止や数量削減などの報復措置は禁止されています。「言ったら切られる」という恐怖を、制度として抑えに来ている点も、今回の改正の特徴です。
だからこそ、原価管理が重要になる
2026年改正によって、運送業者は「交渉してよい立場」「協議を求めてよい権利」を、法的に手に入れます。ただし、ここで一つ、非常に重要な現実があります。
法は、交渉の入口は守ってくれますが、いくらが妥当かまでは決めてくれません。最後に問われるのは、その運賃や付随費用が、なぜ必要なのかを説明できるかです。
たとえば、荷待ちが2時間発生した、無償の荷下ろし作業を求められた、燃料費が上がったので運賃を上げたい──これらはすべて、改正法のもとで協議対象になります。しかし、「大変なので」「人手不足なので」といった感覚的な説明だけでは、交渉は前に進みません。
一方で、ドライバー1時間あたりの人件費、車両1台あたりの固定費、燃料費の実績推移、荷待ち1時間あたりの実コストといった数字が整理されていれば、話は感情論ではなく、業務の対価の話になります。
原価管理は「値上げのため」だけではない
原価管理というと、「値上げ交渉のための武器」と思われがちですが、本質はそこではありません。どこまでなら受けられるのか、どこから赤字になるのか、何が一番負担になっているのか──これを自社が把握するためのものです。
法改正後は、すべてを飲まなければならない世界ではなくなります。その代わり、条件を分解し、採算を見て、交渉する世界になります。
2026年改正は「経営の問い」を突きつけている
今回の改正は、運送業界にとって単なる規制強化でも、単なる救済策でもありません。それは、「あなたの運送は、いくらで成り立っているのか」という、経営の根本的な問いを突きつけています。
運賃、荷役、待機、付随業務。これらを一つずつ分解し、原価を把握し、説明できる会社だけが、本当の意味で「交渉できる側」へ移行できます。
2026年改正は、我慢しなくてよくなる時代の始まりであると同時に、経営としての成熟を求められる時代の入口でもあります。

中小企業診断士。経営改善計画策定・DX推進を専門とする経営コンサルタント。製造業や建設業を中心に、制度改正対応と利益改善を支援。制度改正を交渉力へ変える実務型支援を行っています。


