最終回 食料システム法で「得をする会社」「損をする会社」

2026年4月に全面施行される食料システム法。この法律をどう受け止めるかで、今後の経営判断にはかなり差が出ます。「規制が増えた」「対応が面倒だ」と感じる方も多いと思いますが、実務目線で見ると、この法律は守りと攻めを同時に求めてくる制度です。

守りだけやって終わると、投資や成長の機会を逃します。攻めだけ進めると、取引の火種が残ります。この回では、第1回〜第4回を踏まえて、中小企業がいまの自社をどう点検すべきかを、できるだけシンプルに整理します。


まず全体像:この法律で、会社に何が起きるのか

食料システム法が目指している方向は、かなり明確です。取引は「我慢」ではなく「説明と協議」へ、投資は「自己責任」ではなく「制度と一緒に」、事業活動は「安さ」ではなく「持続性」を前提にする、という流れを制度として固定しに来ています。

裏を返すと、価格交渉を避け続ける、投資を自己資金と短期借入だけで判断する、取引慣行を「昔からこうだから」で済ませる、こうした姿勢のままだと、じわじわ不利になる構造です。


守りの論点:取引適正化は「規程」より「運用」が問われる

2026年4月以降、取引適正化は本格運用に入ります。フードGメンもすでに稼働しており、実態調査や情報収集は始まっています。ここで中小企業がまず意識すべきなのは、立派な社内規程を作ることではありません。

実務で問われるのは、とても単純です。価格交渉の申し出を放置していないか、一律に拒否する運用になっていないか、説明を求められたときに説明できる状態か。特に重要なのは、自社が元請け側なのか下請け側なのかで、求められる行動が違うという点です。

元請け・買い手の立場であれば、交渉を無視する、回答を引き延ばす、といった対応はリスクになります。一方、下請け・売り手の立場であれば、そもそも価格交渉を申し出ていない、あるいは申し出るタイミングが決まっていないこと自体が問題になります。「我慢する文化」が残っていないか。ここは一度、冷静に点検した方がいいところです。


攻めの論点:投資は「制度込み」で考える

食料システム法の計画認定制度は、投資を前に進めるための制度です。省力化、物流効率化、脱炭素、原材料の安定調達。やること自体は、どれも特別な話ではありません。違いは、それを認定計画に載せるかどうかです。

認定を受けることで、最長25年の長期・低利融資、即時償却や税額控除、研究開発設備の利用、事業承継・再編時の特例といった選択肢が一気に広がります。制度を使わずに同じ投資を行うのは、自ら不利な条件で勝負しているのと同じです。


5分で分かる簡易診断(5問)

ここまでの話を踏まえて、まずは以下の5問にYES/NOで答えてみてください。

Q1:自社の原価・コスト構造を、取引先に説明できる状態になっていますか?

(原材料・物流・人件費など、要因まで言語化できる)

Q2:自社の立場に応じて、価格交渉への対応ルール/申し出ルールがありますか? 

  • 元請け・買い手の立場の場合、価格交渉の申し出を「放置しない」「一律に断らない」ための社内ルールや判断フローがありますか? 
  • 下請け・売り手の立場の場合、コスト上昇時に価格交渉を実際に申し出ているか、申し出るタイミングのルールがありますか?

Q3:今後5年以内の投資について、計画認定制度に乗るか検討したことがありますか?

(省力化・物流・脱炭素・原材料調達など)

Q4:設備投資や承継・再編を、融資・税制を含めて設計していますか?

(自己資金と短期借入だけで判断していない)

Q5:取組内容や改善状況を、社外に「見える形」で説明できていますか?

(資料、説明文、情報開示など形式は問わない)

判定の目安は、YESが4〜5個なら準備はかなり進んでいます。次は制度活用の具体化へ。YESが2〜3個なら要テコ入れ、早めに外部相談を。YESが0〜1個なら放置は危険、まずは現状整理から。


制度は「選別」ではなく「選択」です

食料システム法は、企業を罰するための制度ではありません。どの方向に進む会社と、国が一緒にリスクを取るか、それを明示した制度です。我慢を続けるのか、説明し、投資し、価値として伝えていくのか。この差は、これからかなりはっきり出てきます。


【連載全体の振り返り】

ここまで5回にわたって、食料システム法の全体像から実務対応まで整理してきました。最後に、各回のポイントを振り返ります。

第1回では、この法律がなぜ必要とされたのかを押さえました。コストの高止まり、食料安全保障、人手不足、環境負荷への対応。こうした現実を背景に、取引の適正化と事業活動の促進という2つの柱が設計されています。価格を縛る法律ではなく、話し合いのルールと投資支援をセットにした制度だという点が基本です。

第2回では、この法律の影響範囲を確認しました。食料システム法は特定の業界だけの話ではなく、サプライチェーン全体に目を向けた制度です。生産者から製造、流通、小売・外食まで、それぞれの立ち位置で求められる役割が変わります。問われているのは業種ではなく、「この流れのどこに立っているか」という視点です。

第3回では、中小企業が何から備えるべきかを整理しました。守りとしての取引適正化、攻めとしての計画認定制度。この2つを分けて考えることで、やるべきことが見えてきます。窓口に早めに相談し、自社の計画が制度の枠に乗るかを確認する。この一手が、制度活用の分かれ目になります。

第4回では、今日から何を確認すればいいのかをチェックリスト形式で示しました。コスト構造の説明力、価格交渉への対応、投資計画の有無、相談の早さ。これらを点検することで、自社の現在地が把握できます。チェックリストは全部を一気に埋めるものではなく、次の一手を決めるための道具です。

そして第5回では、得をする会社と損をする会社の分かれ目を見てきました。5つの質問に答えるだけで、自社がどちらに向かっているかがある程度分かります。この法律は選別のための制度ではなく、選択を明示した制度です。どう向き合うかで、これからの経営判断に差が出ます。

食料システム法は、まだ動き始めたばかりの制度です。完璧な対応を求められているわけではありません。ただ、何もしないまま2026年4月を迎えるのと、少しでも準備を進めておくのとでは、その後の選択肢が大きく変わります。この連載が、そのための一助になれば幸いです。