第2回 食料システム法|影響を受ける企業は誰か── 食品関連「だけではない」食料システム法の射程

「食品業界の法律」と思っていると、少しズレる

食料システム法と聞くと、「食品業界向けの新しい規制」「農業や食品メーカーの話」と受け止める方が多いと思います。実際、ニュースや解説記事もその切り口が中心です。ただ、この法律を少し引いた位置から眺めてみると、特定の業界だけを対象にした制度ではないことが見えてきます。

食料システム法が見ているのは、農林漁業者から消費者に至るまでの一連の流れ、いわゆるサプライチェーン全体です。言い換えると、「どの業界に属しているか」よりも、「この流れのどこに立っているか」が問われる法律だと考えた方が理解しやすいでしょう。

食料システムは、分断された業界の集合ではない

食料は、単独の産業で完結するものではありません。原材料が生産され、それが加工され、流通を経て小売や外食に届き、最終的に消費されます。このどこか一段階に無理が押し込まれれば、その歪みは必ず別の段階に跳ね返ります。

価格が上がらない、納期が厳しくなる、人手が足りなくなる、在庫やロスが増える。こうした問題は、個別企業の努力不足というより、サプライチェーン全体の構造として蓄積されてきたものです。これまで日本の食料システムは、その歪みを「現場の我慢」で吸収し続けてきました。食料システム法は、その前提を見直そうとする法律だと言えます。

生産段階──「言えなかったコスト」を言語化する立場へ

サプライチェーンの起点に立つのが、農林漁業者です。資材費や燃料費が上がっても、「相場だから仕方がない」「言い出せば取引が切れるかもしれない」と考え、コスト上昇を飲み込んできた生産者は少なくありません。

食料システム法では、こうした構造を前提に、合理的な費用を示したうえで取引条件の協議を申し出ることが、正当な行為として位置づけられました。ここで重要なのは、「必ず値上げが通る」という話ではない点です。価格を決める前に、話し合うこと自体が制度として認められた、というところに意味があります。

また、生産者と食品事業者の関係も、単発の売買から、契約取引や人的・物的支援を含む安定的な連携へと広げていくことが想定されています。「売る側」「買われる側」という関係から、一段踏み込んだ関係性への転換が求められている、と言ってもよいでしょう。

製造・加工段階──板挟みだが、制度の中核でもある

食品製造業者は、食料システム法の中で最も複雑な立場にあります。上流の生産者からは原材料コストを理由とした協議を求められ、下流の小売や外食からは従来通りの価格や条件を求められる。いわば板挟みの位置です。

ただし、この立場は単なる「調整役」にとどまりません。製造業者自身も、下流に対して誠実な協議を求める主体として位置づけられています。さらに、国産原材料への切り替え、省力化や自動化、脱炭素対応、食品ロス削減といった取り組みを計画として整理し、認定を受ければ、融資や税制といった具体的な支援につなげることができます。製造業者は、制度の中核であり、同時に変わることを期待されている主役でもあります。

流通・卸・卸売市場──「現場努力」から戦略インフラへ

物流や卸売は、これまで「現場の頑張り」で支えられてきました。しかし現在は、ドライバー不足や多頻度配送の限界によって、サプライチェーン全体のボトルネックとしてその存在が強く意識されるようになっています。

食料システム法では、共同配送や荷待ち時間の短縮、標準化といった取り組みが、単なるコスト削減策ではなく、食料供給を維持するための戦略的なインフラ整備として位置づけられています。卸売市場についても、価格形成の場という役割に加えて、合理的な費用を踏まえた取引を支える基盤としての機能が再定義されつつあります。

小売・外食──「値頃感」だけでは通らなくなる

消費者に最も近い小売・外食の段階では、これまで以上に「説明できる取引」が求められます。「消費者の値頃感」を理由に一方的にコスト割れの価格を求めたり、補助金が出ているのだから値下げできるはずだと迫ったりする行為は、食料システム法の考え方からすると指導・助言の対象になり得ます。

ここでも誤解されやすいのですが、価格を上げなければならない、という話ではありません。なぜその価格なのかを説明できるかどうか、その前提が問われるようになった、という点が本質です。

ここで一度、全体を整理してみる

ここまで各段階を個別に見てきましたが、食料システム法が最終的に問いかけているのは、「自社はこの流れのどこに立ち、どんな役割を担っているのか」という一点です。その視点で整理すると、全体像は次のようになります。

段階これまでの立ち位置食料システム法での変化考えるべき視点
生産コストを飲み込む側協議を申し出る主体何を根拠に説明できるか
製造上下の調整役投資と変革の主役変わる計画を描けているか
流通現場努力の受け皿戦略的インフラ無理はどこに溜まっているか
小売・外食安さの提示者説明と情報発信の担い手価格をどう説明するか

フードGメンは「罰する存在」なのか

食料システム法というと、「フードGメン」という言葉に身構える事業者も多いかもしれません。現在、フードGメンはすでに発足し、取引実態の把握が進められていますが、価格を決めたり、いきなり罰則を科したりする存在ではありません。

基本は実態調査と指導・助言であり、それでも改善が見られない場合に勧告や公表へ進む、という段階的な運用が前提です。直接的な罰則が想定されているのは、調査の拒否などごく限定的な場面に限られ、本当に問題になるのは独占禁止法に接続されるような不公正な取引行為です。

問われているのは「業種」ではなく「立ち位置」

食料システム法は、特定の業界を縛るための法律ではありません。サプライチェーンのどこかに無理を押し込む構造を、これ以上前提にしないという宣言に近い制度だと考えた方が自然です。

自社はこの流れのどこに立っているのか。そして、その立ち位置にふさわしい役割を果たせているのか。次回は、この問いをさらに一歩進めて、中小企業は何から備えるべきかを、より実務的な視点から整理していきます。