人脈の「焼畑農業」が招いた必然の不祥事

── 人脈焼畑農業という視点から

※本稿は、特定の企業や現役社員、個人を非難することを目的としたものではありません。真面目に働く人ほど追い詰められてしまう「仕組みの設計」に焦点を当てた考察です。

なぜ「個人の問題」では済まないのか

大きな不祥事が起きると、その原因はしばしば「一部の不正な社員」や「倫理観の欠如」といった言葉に還元されます。確かに、個々の行為に責任がないとは言えません。ただ、それだけで話を終わらせてしまうと、どうしても腑に落ちない部分が残ります。同じような問題が、同じ業界で、形を変えながら繰り返し起きているからです。

今回の不祥事も、個人の資質やモラルだけで説明するには、あまりにも構造的な匂いが強いように見えます。むしろ、人材の採り方や使い方そのものに内在していた歪みが、時間をかけて表に出てきた結果ではないでしょうか。本稿では、この構造を「人脈の焼畑農業型経営」という視点から整理してみたいと思います。


成果主義と採用が結びついた「人脈焼畑モデル」

記者会見では、不祥事の背景として「過度な成果報酬」や「営業の自主性を尊重しすぎたこと」が挙げられていました。ただ、この説明を聞いて、少し違和感を覚えた方も多いのではないでしょうか。本当に問題だったのは、報酬が高すぎたことなのでしょうか。

実態を見る限り、むしろ逆です。稼げている間は何も言われませんが、稼げなくなった瞬間に生活が立ち行かなくなる。それでも評価基準は成果のみで、立て直しのための時間や余地はほとんど与えられない。これは「高報酬」というより、「稼げなければ即座に詰む設計」と呼ぶほうが実態に近いでしょう。そこに、新規顧客を自力で生み出し続けなければならないという条件が重なれば、現場にかかるプレッシャーは相当なものになります。

この構造をさらに強めていたのが、採用のあり方です。表向きには「優秀な人材の確保」や「コンサルティング能力の高い営業の採用」が語られますが、実態としては、採用時点でその人がすでに持っている関係資本に大きく依存したモデルだったのではないでしょうか。親族や知人、前職の顧客、人脈といったものが、その人の能力と同時に評価されていた可能性は否定できません。

経験者採用やヘッドハンティングは、即戦力を得るという点では合理的です。ただ同時に、「その人がアクセスできる顧客層」や「すでに築かれた信頼関係」を含めて買っている側面もあります。これは人を育てる採用というより、すでに育った作物を刈り取る行為に近い構造です。短期的には効率的ですが、その畑が何度も収穫に耐えられるとは限りません。


人脈が枯れたとき、現場で何が起きるのか

このモデルのもとで、多くの営業が最初に向かう先はほぼ決まっています。友人、知人、親族、元同僚。最初の一年は、いわば「人脈の消費期間」です。しかし、人間関係は一度しか刈れません。初年度で取り切ってしまえば、二年目には新たに売る相手がいなくなります。

そのタイミングで完全歩合制に移行すれば、収入は一気に不安定になります。結果として、二年目で脱落する人が続出し、生き残るのは、さらに強い人脈を持つ一部の人だけになる。これは営業力の差というより、最初に与えられていたカードの差に近い話です。

人脈が枯れ、収入が不安定になると、営業は精神的にも追い詰められていきます。生活費の不安を抱えながら、交通費やカフェ代といった経費は自己負担で、効率的なSNS集客も制限される。そうなると、飛び込みや無差別な声かけといった、極めて非効率で消耗の激しい営業に頼らざるを得なくなります。それでも成果を出さなければならない状況の中で、本来なら踏み越えてはいけない一線に近づいてしまう動機が生まれる。これは個人の資質の問題というより、仕組みが人をそこまで追い込んだ結果と考えるほうが自然でしょう。


人を活かす経営と、人を消費する経営の分岐点

もう一つ見逃せないのが、このモデルが長く温存されてきた背景です。大規模なテレビCMを打たず、会社名より営業個人が前に出る紹介制中心のビジネスでは、トラブルが個別処理されやすく、問題が「点」で終わりがちになります。その結果、社会的な監視が働きにくくなり、焼畑農業型のモデルが修正されないまま続いてきました。皮肉なことに、全国区の知名度を得た瞬間、このモデルは成立しなくなります。

今回の不祥事が示しているのは、営業をプロとして育てる設計ではなく、彼らが持つ人間関係を換金し、枯れたら次を採るという人材焼畑農業型経営の限界です。採用を止めれば売上が止まるため、採用そのものがKPIになり続ける。しかし、刈り取れる人脈には必ず限界があります。この前提にメスを入れない限り、同じ問題は形を変えて、必ず繰り返されるでしょう。

本稿で問いたいのは、誰が悪いかという話ではありません。真面目な人ほど、組織の設計によって追い詰められてしまう構造はなかったのか、という一点です。人を活かす経営と、人を消費する経営は紙一重です。今回の不祥事は、その分岐点を私たちに突きつけているように思います。

人脈焼畑農業チェックリスト

  • 採用時に「前職の顧客」への期待が暗黙にある
  • 人脈を使い切った後の育成設計がない
  • 採用数が売上KPIになっている

2つ以上当てはまる場合、そのモデルは持続しません。

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