第1回 飲食店の発注はAIで変わる | 飲食店は自前で需要予測システムを作れる時代になった

飲食店の経営において、発注業務ほど厄介な仕事はなかなかありません。仕入れが多すぎれば廃棄ロスが出ますし、少なすぎれば欠品で売上機会を逃してしまいます。しかも飲食店の売上は、曜日や天候、祝日、給料日、近隣イベントなど、さまざまな要因によって日々大きく変動します。「ちょうどいい量」を読むのは、想像以上に難しい仕事です。

そのため多くの飲食店では、店長や料理長が長年の経験と勘を頼りに発注量を決めています。「今日は雨だから客足が落ちそうだ」「給料日後だから飲み会が増えるかもしれない」といった判断は、現場で積み上げてきた大切な知識です。実際、こうした経験値は店舗運営において非常に重要な役割を果たしています。

ただ、ここにきて状況が少しずつ変わりつつあります。

POSデータや気象データを活用することで、売上や来客数をかなりの精度で予測できるようになってきました。さらに生成AIの登場によって、こうした仕組みを構築するハードルも大きく下がっています。これまでは大手チェーンやIT企業にしか手が届かなかった需要予測の仕組みが、個店レベルでも作れる可能性が出てきたのです。

本記事では、飲食店の需要予測がどのような仕組みなのか、そしてなぜ今それが自作できるようになってきたのかを整理してみたいと思います。


外食の需要予測は意外とシンプルにできている

AIというと、何やら高度なアルゴリズムが必要で、専門家でなければ扱えないものだと思われがちです。しかし外食の需要予測は、実はそれほど複雑な仕組みではありません。

使われるデータも、過去の売上、曜日、祝日、気温、降水量、給料日といったもので、どれも特別なものではありません。

たとえば来週金曜日の売上を予測したい場合、極端な話、先週金曜日の売上をベースにするだけでも、ある程度の精度が出ることがあります。これは飲食店の売上に強い周期性があるからです。金曜日は売上が高く、日曜日はやや落ち、月曜日は客足が鈍いというパターンは、多くの店舗で共通して見られます。

さらにここに天候の影響が加わります。雨の日は来客数が減り、暑い日はビールが出やすくなり、寒い日は揚げ物や鍋料理の注文が増える傾向があります。こうした要素を組み合わせていくことで、売上予測の精度はかなり高まります。

しかも天候データは無料で手に入ります。気象庁は開発者向けに気象データの利用ガイドを公開しており、気温や降水量などの観測データを取得することが可能です(参考:気象庁 気象データ利用ガイド)。

以前はこうしたデータを扱うには専門的なプログラミング知識が必要でしたが、現在ではPythonやExcelなどでも十分に扱えるようになっています。外部データを活用した需要予測は、以前よりずっと身近なものになっていると言えるでしょう。

つまり外食の需要予測というのは、AIがなければ不可能というものではなく、もともと比較的シンプルな構造を持っているのです。AIはその精度をさらに高めるための道具にすぎません。


予測を「発注」に変えるには業務設計がいる

需要予測を発注管理に活かす場合、基本的な流れは次のようになります。

まずPOSデータと天気データ、曜日や祝日の情報を組み合わせて売上を予測します。次にその売上予測をもとに、「どの商品がどれだけ売れるか」を推定します。さらに各商品のレシピに基づいて食材の使用量を計算し、在庫を差し引いて発注量を決めます。

たとえば串カツ店であれば、「串カツが何本売れるか」を予測できれば、豚肉が何キロ、衣が何キロ、油がどれだけ必要かを計算できます。ここで重要になるのがレシピマスタの整備です。串カツ1本あたり豚肉18g、衣12g、油4gというデータがあれば、串カツ600本の予測から豚肉10.8kgという食材単位の消費量を計算できます。

ここで注意しておきたいのは、発注管理において本当に重要なのは来客数ではなく「何が売れるか」という点です。

同じ100人の来客でも、若い客層が多い日と家族客が多い日では注文内容が大きく変わります。揚げ物が多い日なのか、ドリンク中心の日なのか、食事メニューがよく出る日なのかによって、必要な食材量はまったく違ってきます。

そのため発注管理では、

graph TD
    A[売上予測] --> B[商品販売予測]
    B --> C[食材消耗量]
    C --> D[発注量]

    style A fill:#fff,stroke:#333,stroke-width:3px
    style B fill:#fff,stroke:#333,stroke-width:1px
    style C fill:#fff,stroke:#333,stroke-width:1px
    style D fill:#333,stroke:#333,stroke-width:1px,color:#fff

という構造で考える必要があります。


DXの本質はAIより業務設計にある

ここで強調しておきたいのは、需要予測の難しさはアルゴリズムよりも業務設計のほうにあるという点です。

レシピ管理や在庫管理、発注単位の整理、廃棄管理といった仕組みが現場できちんと整備されていなければ、どんなに精度の高い予測を出しても実務では使われません。

実際、多くのIT導入が失敗する原因は、システムの性能不足ではなく、業務プロセスとの不整合にあります。

つまりDXにおいて本当に重要なのは、AIそのものよりも、自社の業務の構造を理解して整理することなのです。


「勘」から「データ」へ

これまでこうした仕組みを作ろうと思えば、エンジニアやデータサイエンティストを確保し、大きなIT投資をする必要がありました。しかし生成AIの登場によって、その状況は大きく変わりました。

現在ではAIの支援を受けながら、データ分析のコードやAPI連携、簡単な管理画面などを比較的短時間で作れるようになっています。その結果、中小の飲食店でも自前で需要予測の仕組みを作れる可能性が出てきました。

もちろん、すべてをAIに任せる必要はありません。大事なのは、データを活用して発注判断を支援する仕組みを、自分たちの手で作れるようになったということです。

飲食店の発注管理は長年「経験と勘」に依存してきました。しかしPOSデータや気象データ、カレンダー情報を組み合わせることで、需要予測はかなりの精度で行えるようになっています。そして生成AIの登場によって、こうした仕組みを自社で構築するハードルも確実に下がっています。

その仕組みは、もう大企業だけのものではありません。個店レベルでも作れる時代が、いよいよ始まりつつあるのです。


次回:飲食店の需要予測はどんなデータでできているのか

次回は「飲食店の需要予測はどんなデータでできているのか」をテーマに、POSデータや気象データ、カレンダー情報、周辺環境データなど、需要予測に使われる具体的なデータを整理していきます。

外食の需要予測は、実はそれほど多くのデータを必要としません。どのようなデータがあれば予測ができるのか、その全体像を見ていきたいと思います。