第2回 飲食店の発注はAIで変わる|需要予測はどんなデータでできているのか

前回の記事では、飲食店でも自前で需要予測システムを構築できる可能性について紹介しました。POSデータや天候データを活用すれば、売上や来客数をかなりの精度で予測できるようになっている、という話です。

では実際に、飲食店の需要予測にはどのようなデータが使われているのでしょうか。「AIで需要予測」と聞くと、膨大なデータを集めて高度なシステムを組まなければならないように思われがちですが、実際に使われるデータの種類はそれほど多くありません。今回は、飲食店の需要予測に使われる代表的なデータを整理しながら、それぞれがどのように予測に活かされるのかを見ていきたいと思います。

POSデータが需要予測の土台になる

飲食店の需要予測で最も中心となるのは、やはりPOSデータです。POSデータには売上日時、商品名、販売数量、売上金額、店舗情報といった情報が含まれており、これを時系列で並べることで売上のパターンが見えてきます。

多くの飲食店では、曜日ごとに売上の傾向がはっきりしています。月曜日は比較的落ち着いていて、水曜日あたりから徐々に売上が伸び、金曜日にピークを迎え、日曜日はやや落ちる。こうした周期性は業態を問わず多くの店舗で共通して見られるパターンです。

このパターンを利用すれば、来週の金曜日の売上を予測する際に「先週の金曜日の売上」をベースにするだけでも、ある程度の精度が出ます。時系列データ分析の用語では、こうした過去のデータをラグ変数(lag)と呼びます。1日前の売上、7日前の売上、14日前の売上といったデータを説明変数として使うことで、売上の傾向を数値的に捉えることができるわけです。

飲食店の売上は比較的周期性が強いため、こうしたシンプルな手法でも実務上は十分に機能することがあります。もちろん精度を上げるためには他の要素も加味する必要がありますが、まずPOSデータの時系列分析が需要予測の土台になるという点は押さえておきたいところです。

曜日・祝日・連休が売上パターンを決める

POSデータと並んで予測精度を左右するのが、曜日や祝日といったカレンダー情報です。

飲食店の売上は曜日によって大きく変動します。金曜日は飲み会需要が集中しやすく、土曜日は家族連れが増え、日曜日は早い時間帯に混雑するといった傾向は、多くの店舗で経験的に知られていることでしょう。需要予測ではこうした傾向を数値化するために、曜日や祝日フラグ、連休フラグといった情報を説明変数として組み込みます。

特に日本では大型連休の影響が大きく、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始といった時期は通常の売上パターンとは大きく異なる動きをします。観光地や繁華街の店舗は普段より売上が伸びる一方で、オフィス街の店舗はむしろ閑散期になるケースもあります。こうした連休の影響を予測に反映させるためには、単に「祝日かどうか」だけでなく、連休の何日目にあたるのかといった情報も有効です。

曜日と祝日のデータはカレンダーから機械的に生成できるため、取得コストはほぼゼロです。それでいて予測精度への貢献は大きいので、需要予測を始める際には最初に組み込むべきデータと言えます。

天候は外食需要を大きく左右する

飲食店の売上に影響を与える外部要因として、天候データも見逃せません。雨の日は来客数が減る、暑い日はビールが売れる、寒い日は鍋料理や揚げ物の注文が増える。こうした傾向は飲食店で働いたことがある方なら実感として理解できるのではないでしょうか。

需要予測で使われる気象データとしては、気温、降水量、天気、湿度あたりが代表的です。これらのデータは気象庁の公開データから取得することができます(参考:気象庁 気象データガイド)。

たとえば居酒屋の場合、気温が高い日はビールの売上が伸びるという傾向が統計的にも確認されることがあります。逆に雨の日は、特に駅前立地の店舗では来客数が落ちやすい。こうした天候と売上の関係を数値化して予測モデルに組み込むことで、曜日やPOSデータだけでは捉えきれない変動を説明できるようになります。

天候データの利点は、翌日や翌々日であれば天気予報からある程度の精度で事前に把握できるという点です。発注業務は通常、翌日や翌々日分の仕入れを決めるタイミングで行われますから、天気予報の情報を組み込むことで「明日は雨だから仕入れを少し減らす」といった判断を、勘ではなくデータに基づいて行えるようになります。

ただし注意が必要なのは、天候の影響は業態や立地によって大きく異なるという点です。駅直結のショッピングモール内の店舗であれば雨の影響は小さいかもしれませんし、テラス席がメインの店舗であれば雨の影響は甚大です。天候データを予測に使う際には、自店舗の過去データで実際にどの程度の相関があるのかを確認してから組み込むことをお勧めします。

給料日と立地という「隠れた変数」

ここまで紹介したPOSデータ、曜日・祝日、天候の3つは、飲食店の需要予測における基本的なデータセットと言えます。これだけでもかなりの精度で売上を予測できますが、さらに精度を高めたい場合に使われるデータがいくつかあります。

その一つが給料日の情報です。日本では多くの企業が25日前後に給料日を設定しているため、給料日直後は外食需要が増える傾向があります。居酒屋であれば給料日直後に飲み会が増えたり、月末にかけて客単価が上がったりする傾向が見られることがあります。こうした傾向を捉えるために、給料日フラグや給料日からの経過日数といったデータを説明変数に加えることがあります。給料日の情報はPOSデータには含まれていませんが、カレンダー情報として簡単に追加できるものですから、試してみる価値はあるでしょう。

もう一つ、より高度な分析で使われるのが店舗の周辺環境データです。駅からの距離、周辺の飲食店数、オフィスの密度、住宅地の人口といった情報がこれにあたります。同じチェーン店でも、駅前の店舗と住宅地の店舗では売上のパターンが大きく異なります。駅前店舗では平日の夜に売上が集中しやすく、住宅地の店舗では週末の昼間が強い、といった具合です。

複数店舗を展開しているチェーンであれば、こうした立地特性をデータとして取り込むことで、店舗ごとの予測精度を高めることができます。ただし個人経営の飲食店の場合は、自店舗の過去データだけで十分な予測ができることも多いので、無理に周辺環境データを集める必要はありません。

まとめると、飲食店の需要予測に使われるデータは、POSデータ、曜日・祝日、天候、給料日、周辺環境データの5種類程度です。このうち最初の3つがあればかなりの精度で予測が可能であり、残りの2つは精度向上のためのオプションと考えればよいでしょう。いずれも特殊なデータではなく、比較的簡単に入手できるものばかりです。ExcelやPythonを使った小規模な分析でも、十分に実用的な予測モデルを構築することは可能です。

売上予測ができても発注は決まらない

ここまで見てきたように、飲食店の需要予測に必要なデータはそれほど多くなく、特別なシステムがなくても始められるものです。しかし実務では、売上予測ができたとしても、それだけでは発注量を決められないという大きな壁があります。

たとえば「明日の来客数は100人」と予測できたとしましょう。しかし同じ100人でも、ビールを中心に注文する日と、食事メニューが多い日とでは、必要な食材の種類や量がまったく異なります。つまり来客数や売上の予測はあくまで第一段階であり、そこから「では何をどれだけ仕入れるべきか」に変換する仕組みがなければ、予測は実務に活かせません。

この変換の流れを整理すると、売上予測から商品別の販売予測を立て、それをレシピ情報に基づいて食材の消費量に変換し、さらに在庫状況や発注ロットを考慮して最終的な発注量を決定する、というプロセスになります。需要予測そのものよりも、この変換プロセスの設計のほうがはるかに難しく、ここが飲食店DXの本質的な課題と言えます。

どれだけ精度の高い売上予測ができても、商品と食材の対応関係(いわゆるレシピマスタ)が整備されていなければ発注量には変換できませんし、在庫管理の仕組みがなければ「今ある在庫を差し引いて不足分だけ発注する」という当たり前の計算もできません。多くの飲食店では、こうした基礎的なデータ整備が追いついていないために、せっかくの予測が活かしきれていないのが実情です。

次回:需要予測より難しい「発注管理の設計」

今回は飲食店の需要予測に使われるデータの全体像を整理しました。POSデータ、曜日・祝日、天候データという3つの基本データがあれば、売上予測はかなりの精度で行えます。しかし予測の先にある「発注量の決定」こそが、飲食店の現場で本当に求められている課題です。

次回は、需要予測を実際の発注業務に落とし込むために必要な「発注管理の設計」について考えていきます。レシピマスタの構築、在庫管理の考え方、発注ロットの設計など、飲食店DXの実務的な核心に迫る内容です。