第3回 改正取引適正化|改正取適法・振興法で、製造業はどう変わるのか

――「我慢する下請」から「交渉できる取引主体」へ
2026年1月1日、取引の現場を静かに、しかし確実に変える法改正が始まります。改正されるのは、いわゆる下請法にあたる取適法(中小受託取引適正化法)と、振興法(受託中小企業振興法)です。
ポイントは一言で言えばこうです。「今まで"当たり前"として飲み込んできた負担を、これからは"当たり前ではない"と言ってよい時代になる」。製造業、とくに金型・治具・部品加工を担う中小企業にとって、影響は小さくありません。
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「うちは対象外」は通用しなくなる
今回の改正で、まず押さえておくべき変化があります。資本金だけでなく「従業員数」でも保護対象が判断されるようになった点です。委託側(発注者)が従業員300人超で、受託側(自社)が300人以下であれば、資本金に関係なく法の保護対象になります。
これまで「資本金が大きいから下請法は関係ない」と思っていた製造業でも、突然"保護される側"になるケースが出てきます。さらに重要なのが、対象物の拡大です。金型だけでなく、木型、成形用の型、治具、特殊工具までが、明確に法律の射程に入りました。「それ、昔から預かってるよね」という治具こそ、今回の改正の核心です。
価格は「お願い」ではなく「協議」になる
改正法の本質は、価格交渉の位置づけが変わる点にあります。これからは、価格協議の申し入れを無視したり、理由を示さずに一方的に価格を据え置いたりすることが明確に禁止行為になります。
とくに製造業で効いてくるのが、労務費です。最低賃金の引き上げ、春闘の妥結額、人手不足による賃金上昇。これらは「経営努力不足」ではなく、社会的に説明可能なコスト増として扱われます。重要なのは、感情論ではなく、公表資料(最低賃金・春闘データ)、コストを分解した見積、協議の記録(メール・議事メモ)を揃えて交渉することです。「値上げさせてください」ではなく、「この条件変更によって、これだけコストが増えています」という話に変わります。
手形文化は、いよいよ終わる
資金繰りに直結する大きな変化もあります。2026年1月以降の発注分から、手形による支払いは事実上NGになります。手形は支払遅延扱いとなり、電子記録債権でも60日以内に満額現金化できなければNGです。振込手数料を差し引くのも「減額」で違反となります。つまり、「受け取る側が現金で使えるか」が判断基準になります。これは中小製造業にとって、資金繰り改善の大きな追い風です。
金型・治具の「無償保管」は是正対象になる
今回の改正で、もっとも現場感のあるテーマがここでしょう。長年続いてきた「発注が止まっている金型を、無償で保管し続ける」という慣行は、明確に是正対象になります。目安は1年以上発注がない場合です。
保管費用(倉庫代相当)、メンテナンス費、運送費。これらは、請求してよいコストになります。重要なのは、「請求したら関係が悪くなる」ではなく、「請求しないこと自体が不当な負担」という整理に変わった点です。金型だけでなく、治具や木型も同じ扱いになります。
働き方改革のコストは、発注側が負担する
短納期発注、週末発注、急な仕様変更。製造業では日常茶飯事です。しかし改正法の考え方は明確です。発注側都合で残業・休日出勤が発生したり、仕様変更でやり直しが生じたりした場合の割増賃金や追加人件費は、発注側が負担すべきとされています。
「予算がない」は理由になりません。価格協議に応じず、一方的に据え置くことは、買いたたき・不当な給付内容変更として問題になります。
「戦う法律」ではなく「使う法律」
今回の改正は、訴えるための法律ではありません。むしろ、取引条件を整理し、書面に残し、協議の土台をつくるための法律です。それでも、話し合いが進まない場合は、下請かけこみ寺などの公的窓口があります。「関係を壊すため」ではなく、「関係を続けるために、ルールを使う」。そのための選択肢です。
おわりに
改正法が目指しているのは、「強い会社が得をする取引」ではなく、「合理的な説明が通る取引」です。製造業は、数字と現場の積み重ねで成り立っています。だからこそ今回の改正は、きちんと準備すれば味方になります。2026年は、"黙って我慢する製造業"から卒業する年になるかもしれません。

中小企業診断士。経営改善計画策定・DX推進を専門とする経営コンサルタント。製造業や建設業を中心に、制度改正対応と利益改善を支援。制度改正を交渉力へ変える実務型支援を行っています。


