創業相談の場で、うまくいきそうかどうかの判断が一瞬で終わる理由

創業相談の場で、「この人はたぶんうまくいくな」「正直、かなり厳しそうだな」と感じるまでに、どれくらい時間がかかると思われるでしょうか。
実際のところ、慣れてくるとそれほど時間はかかりません。多くの場合、最初の数分、さらに言うと数秒で判断は終わります。

これは勘が鋭いからでも、意地悪をしているからでもありません。相談の受け答えや、最初に出てくる質問を聞いていると、その人が「すでに動いている人」なのか、「頭の中だけでグルグルと考えているだけの人」なのかが、どうしても見えてしまうのです。


創業者はサラリーマンの「平均」から外れた存在です

創業者というのは、良くも悪くもサラリーマンの型に収まらない存在です。能力の上限を大きく超えていく人もいれば、逆に、会社員として求められる最低限の水準にすら達していない人も混ざります。創業という仕組みは、この両方を同時に許してしまいます。

会社員であれば、期限を守れない、数字を出せない、約束が曖昧といった状態は、どこかで注意され、修正され、それでも直らなければ淘汰されます。しかし創業には、そうしたブレーキがありません。その結果、「創業者にはなれてしまうが、事業を続ける力がない人」が一定数、必ず現れます。

創業相談の場には、この「上にも下にも振れた人たち」が同時に集まってきます。


創業支援の現場では「寄り添い」が正解になりやすい

さらにややこしいのが、創業支援の構造です。創業支援コンサルタントの顧客は、創業者本人ではありません。自治体や商工会、金融機関といった支援機関が顧客です。

評価されるのは、相談件数や参加者満足度、クレームが出ないことです。創業がその後どうなったかは、ほとんど評価の対象になりません。だから制度としては、創業準備中の相談者に「気分よく帰ってもらう」ことが正解になります。「寄り添ってください」と言われるのも、感情論というより、リスク管理の話です。

それでも、うまくいきそうかどうかは、かなり早い段階で分かります。


判断が早く終わる理由は「質問の質とタイミング」です

支援者が見ているのは、知識量ではありません。質問の中身と、そのタイミングです。

たとえば、「何からやればいいのか分からなくて」という相談。今の時代、本屋に行けば創業手続きの本はいくらでもありますし、ネットにも無料の情報が溢れています。それでもこの言葉が出てくる場合、問題は知識不足ではありません。

自分で調べ、整理し、優先順位を決めるという作業を、最初から他人に委ねてしまっている状態です。

創業相談は、思考を代行するサービスではありません。本来持ち込まれるべきなのは、「ここまで調べたけれど、この点が分からなかった」「実際にやってみたら、ここで詰まった」という話です。「何からやればいいか分からない」という言葉は、「全部決めてほしい」と言っているのと、ほとんど変わりません。


極めつけは「節税って、何をしたらいいですか?」

もう一つ、判断が一瞬で終わる質問があります。それが「節税って、何をしたらいいですか?」というものです。

売上も立っておらず、利益も出ていない段階で節税を気にする人は、ほぼ例外なく行動が止まっています。節税そのものが悪いわけではありません。ただ、順番が完全に違います。税金に困るのは、きちんと稼いでからの話です。


最近増えて困っている「ChatGPTに聞いてきました」という相談

ここ最近、とくに増えてきて困っているのが、「ChatGPTに聞いてきました」という相談です。中には、ChatGPTの出力結果をそのままプリントアウトして、相談の場に持ってくる方もいます。しかも一枚や二枚ではなく、かなりの分量だったりします。

誤解のないように言っておきますが、ChatGPTを使うこと自体は何も悪くありません。私自身も日常的に使っています。ただし、問題は使い方です。

ChatGPTが書いた文章を、そのまま「答え」として差し出されると、その人自身がどこまで考えているのかが、こちらには見えません。創業相談で意味があるのは、「それを読んで自分はどう考えたのか」「どこで判断に迷っているのか」という部分です。

出力結果をそのまま持ってくる行為は、道具を使っているようで、実は思考を丸ごと外注している状態に近い。支援者の目から見ると、ここでも判断は早く終わります。


そして、やたらと多い「カフェをやりたい」という話

創業相談をしていると、業種としてやたらと多いのが「カフェをやりたい」という話です。業種を聞いた瞬間に、判断が早く終わる代表例かもしれません。

理由はだいたい同じです。憧れがあり、難しそうに見えず、サラリーマン時代の反動として選ばれています。一見すると「やりたいこと」を大事にしているように見えますが、実際にはもう一段浅いケースが多い。

正確に言うと、「楽に、そこそこ稼げそう」というイメージだけを見ている方が少なくありません。創業相談でよく聞く「ガツガツ稼ぎたいわけじゃない」「そこそこ生活できればいい」という言葉も、その延長線上にあります。この「そこそこ」は、ほとんどの場合、具体的な数字に落とされていません。


一杯500円のコーヒーを、何杯売ればいいのか

ここで、感情ではなく数字の話をします。

仮に、コーヒー1杯500円、原価100円(かなり甘めの設定)とします。すると、1杯あたりの粗利は400円です。

家賃が月10万円なら、必要な杯数は250杯。1日あたり8〜9杯です。
生活費として月20万円を出そうとすると500杯、1日16〜17杯。
家賃と生活費を合わせて30万円なら750杯、毎日25杯売ってようやく届きます。

ここまでの計算は、人件費ゼロ、光熱費ゼロ、雑費ゼロです。つまり「理論上の最低ライン」にすぎません。


アルバイトを雇った瞬間、現実は一気に重くなります

仮に、時給1,100円で1日5時間、月20日アルバイトを雇うと、人件費は月11万円です。この11万円をコーヒーだけで賄うには、さらに220杯売らなければなりません。

しかもその間、オーナー自身の給料はゼロです。

ここまで計算しても「思ったよりいけそう」と感じる人もいるでしょうが、それはあくまで机上の話です。実際には、天候や曜日で客数は大きくブレますし、体調を崩しても店は回さなければなりません。


支援者が見ているのは「もう動いているかどうか」だけです

支援者が見ているのは、夢や熱意そのものではありません。自分で調べたか、自分で考えたか、自分で決めたか、そしてすでに何か動いているか。その痕跡があるかどうかです。

質問を聞いた瞬間に、それはどうしても見えてしまいます。だから判断は一瞬で終わります。

創業は、誰にでも向いているものではありません。これは挑戦を否定しているわけではなく、現実をそのまま述べているだけです。創業者は、サラリーマンの上限も下限も外れる存在であり、創業相談の場には、その両方が同時に現れます。

支援者が見ているのは才能ではなく、「もう動き始めているかどうか」です。それは、どれだけ言葉を重ねても隠せるものではありません。